血のつながらぬ親子の悩み
木村さん(仮名)の相談を受けたのは4年ほど前でした。曰く一旦は離婚した妻が、その後に結婚した相手との間に持った女の子が、中学の頃から悪い仲間を伴いさんざん不良行為をして、今は或る地域の刑務所に服役している、その後に妻は、その男性と離婚し、再度、相談者の木村さんの元へ戻って、再度の結婚をしている・・・・と、なかなか一読しても分かりづらい案件です。
要は自分の妻が、一旦は自分を離れて他所の男性と再婚したが、その男性との間に生まれた子が不良が過ぎて、今では刑務所に入っている、その一方で元妻だった女性は再婚した男性と別れて自分の元に戻って来た・・と、複雑な関係にありました。
ところが木村さんの妻(一度、離れて他所の男性と結婚し、また木村さんと再婚した)は、再度の結婚後、間もなく病に倒れて、あえなく亡くなったという事でした。
そうした事の顛末を、淡々とお話になる木村さんでしたが、今の心配は、亡くなった妻が他の男性との間に持った娘の今後の事だと仰いました。
「あと2年か3年が経つと、恐らくムショを出て、戻って来るんですが、私の3人の実子とは縁もないし、その子をどうやって再起させるか? 大きな問題なんです」と仰いました。
その3人の実子は皆、大きくなって既に結婚して、夫々に子どもさんもいます。
そこへ、その問題の子が返って来ても、「困るよ」…と言うお子さんたち、そしてご本人は血のつながらぬ、その子の存在に悩んでいるという構図でした。
話を2度、3度と聞いている内に木村さんは、こんなことを言い出しました。
「相談を始めて一月ほど経ちますが、だいぶ私も考えが固まってきました。あの○○は出所してから、ひと月は面倒を見てあげますが、その後は仕事を探して他所へ行くように仕向けたいと思います。それが本人の為にもなるでしょうし、私の子たちも安心でしょうから」
長年、都内で自分の会社を立ち上げ、お努めだった木村さんはお考え方も鋭く、感情に流されない方とお見受けしていましたが、この急なご本人の提案に驚くとともに、安心しました。
「私のアイデアは、どうでしょうか? 良いと思われますか?」と確認なさる木村さんでしたが、その意は既に固まっているようでした。
その後、私とのカウンセリングは、その娘さんの出所を待たずに終わりました。
その後日談ですが、ある時、私に木村さんから葉書が届きました。その葉書は何と木村さんが、近日に講演をなさるという案内で、私にも参加してください・・・・というものでした。
講演会の当日、独りで行ってみると、既に木村さんは多くの方々に囲まれて、ニコニコしています。私は「今日はおめでとうございます」と一言、述べて後ろに下がりました。
その後の1時間、木村さんは、これまでの自分が歩んで来た道と、そしてその娘さんとの確執を丁寧に細かくお話になったのでした。
割れんばかりの拍手を得て、木村さんは笑顔いっぱいでした。終演後に私のところへいらっしゃって、そして仰いました。
「ありがとうございました。今日の話をして私も吹っ切れました。あの子は面倒を見続けます。私の実の子たちも納得してくれました」
木村さん、おめでとうございました。